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PGT-Aの報道について

12月11日(土)に着床前検査(PGT-A)に関するある報道がなされました。毎日新聞デジタル(https://mainichi.jp/articles/20211211/k00/00m/040/142000c)には「不妊治療の「着床前検査」日本産科婦人科学会が容認 三つのケースに対象限定」という見出しで、その日の午後に行われた日本産科婦人科学会の理事会決定事項が報じられました。

これを読んだ読者で、不妊治療を受けていたりPGT-Aのことを知っていたりした人には少し奇異に感じられたかも知れません。というのは、すでに数年前から一部の不妊治療施設ではPGT-Aを行っており、PGT-Aでお子さんを産んでいる方も少なからずいるからです。「えっ!今までは認められていなかったの?」と驚いた人もいると思います。

PGT-Aは世界的にもまだ本当に有効なのかが分かっておらず、「命の選別」行為だとして倫理的な問題も解決されていないため、日本産科婦人科学会では「見解」という自主規制ルールでその実施を禁止していたのです。現在行われているPGT-Aは、その有効性を確かめるための「特別臨床研究」なのです。

2017年、18年に行われた症例数を限定した特別臨床研究(パイロット試験)では、胚移植あたりの出産率が改善したものの、流産率の低下は確認できませんでした。そこで、症例数を増やすべく全国の不妊治療施設が参加して第二弾の臨床研究が現在も行われています。7月までのデータを中間解析したところ、胚移植あたりの妊娠率、出産率が大幅に改善し、流産率も低下することが分かりました。

来春から体外受精胚移植(IVF-ET)などの高度不妊治療が保険適用になることがほぼ確定的となり、わが国の生殖医療も変革期を迎えようとしています。こうした中、臨床研究のデータもPGT-Aの有効性を示す方向性が見えてきたことから、いよいよ「見解」で禁止しながら臨床研究の名の下にPGT-Aを行なってゆくことに無理があると考え、「見解」を改定してPGT-Aを容認することになったのです。

PGT-Aの臨床研究は、当初2021年12月末で症例の登録を締め切る予定でしたが、全国的に研究の継続を要望する声が大きいことやコロナ禍で症例の登録が一時大幅に滞ったこともあり、研究期間をさらに1年延長することになりました。日本産科婦人科学会「見解」の改定後も、今と全く同様のプロトコル(研究実施要綱、方法)でPGT-Aは継続されます。

毎日新聞デジタルの記事で若干気になる部分があります。「体外受精させた受精卵の全染色体を調べて異常のないものを母胎(体の誤り)に戻す『着床前検査』について、日本産科婦人科学会(日産婦)は11日、東京都内で開いた理事会で、不妊治療の一環として認めると決定した。ただし、流産や死産を繰り返した場合など三つのケースに対象を限定する。来年4月ごろから新たな運用が始まる見通し。」と書かれています。PGT-Aは確かに不妊治療の一環として行われるのですが、「来年4月ごろから新たな運用」という書き方は「4月から不妊治療の保険適用」と重なり、あたかもPGT-Aにも保険が適用されるかのように誤解される恐れがあります。報道によれば、PGT-Aには保険が適用されない見通しとのことです。

現在わが国の保険ルールでは、保険適用の医療行為と適用外の医療行為を同時に行う「混合診療」は禁じられています。したがって、体外受精を保険診療で行ったときにはPGT-Aを行なうことはできません。PGT-Aを行なう場合は、保険適用となるはずの体外受精も私費で行なうことになります。さらに、来年4月以降は不妊治療への助成金もなくなりますので、PGT-Aを行なう場合は大幅な負担増になります。こう考えると、現行の30万円助成金制度(所得制限なし、子ども一人に対して6回まで)の方がはるかによいと考える人も多いと思います。

ひとつ打開策があります。混合診療を可能にする制度のひとつに「先進医療」があります。厚生労働省のホームページをみると、先進医療とは「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」とあります。そこで、PGT-Aを先進医療にすればよいということになります。現在、いくつかの大学病院が中心となってPGT-Aを先進医療にすべく申請の準備を行なっています。

毎日新聞デジタルの記事でもうひとつ気になったのが、着床前検査の流れを説明する図(*毎日新聞デジタルhttps://mainichi.jp/articles/20211211/k00/00m/040/142000cより引用)です。この図を見ると、受精卵の染色体を検査して正常であれば子宮に移植し、「異常あり」なら「廃棄」となっています。ここは大変重要な部分で、染色体数的異常と判断された受精卵を即「廃棄」することは絶対にありません。染色体数的異常と判断されても生まれてくる可能性がないとは言い切れないからです。その代表が21トリソミー(ダウン症)です。また、PGT-Aの検査結果も絶対ではなく、専門家がみても正常か異常かの判断が付きにくい場合も少なくないのです。PGT-Aは、あくまでも受精卵が赤ちゃんになる可能性の順位付けをしているに過ぎないのです。

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