不育症の治療について
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系統的な検査により原因が判明したら、それぞれの病態に応じた治療を行います。甲状腺疾患などの内科的疾患では、妊娠する前からの治療が必要となる場合もありますが、多くの場合妊娠してから(妊娠の可能性が生じた時期)の治療が行われます。以下にそれぞれの原因疾患・病態に対応した治療法を一覧で示します。
原因 | 対応および治療 | 説明 |
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抗リン脂質抗体症候群 | アスピリン・ヘパリン併用療法 | 抗リン脂質抗体症候群の治療は原則として対症療法(血栓を予防する治療)になります。抗リン脂質抗体症候群の診断基準に則って診断された場合はできる限りヘパリン(注射)の併用を行ないます。診断基準に満たなくても治療を行うことがありますが、個別に対応策を考えます。 |
子宮形態異常 | 手術療法 待機療法 |
先天性子宮形態異常の中で中隔子宮には手術療法(子宮鏡下中隔切除術)が有用だとの報告があります。手術を行わなくても出産している人は多く個別の対応が必要です(待機療法)。子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮内膜ポリープは手術療法が有効ですが、これも個別の対応が必要です。なお、当クリニックでは手術は行っておりませんので、大学病院などに紹介させて頂きます。 |
夫婦染色体異常 | 遺伝カウンセリング 着床前検査 |
染色体異常が見つかっても、染色体そのものを治療することは出来ません。一方、異常があっても出産は十分可能です。最近では体外受精により得られた受精卵の染色体検査が出来るようになりました。 |
血液凝固異常 | アスピリン(ヘパリン併用) | 血液凝固異常といってもその程度は様々です。ヘパリン療法が必要となる場合もあります。 |
内分泌代謝異常 | 甲状腺機能低下症→チラージン 糖尿病→食事・運動・薬物療法 |
内科的治療が主体となります。専門的な治療が必要と判断された場合は専門医に紹介させて頂きます。 |
胎児染色体異常反復 | 遺伝カウンセリング 着床前検査 |
一般的に、流産の原因が絨毛染色体検査などにより胎児の染色体異常であることが分かった場合は、次回の妊娠で出産できる可能性は比較的高いと言われます。しかし、母体の年齢が高い場合必ずしもそうとは言えません。体外受精などの高度不妊治療を受けている場合は着床前検査を行う場合があります。 |
当クリニックで行なうアスピリン・ヘパリン療法
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Treatment.01低用量アスピリン療法
低用量アスピリン療法とは?
アスピリンは、解熱鎮痛剤として古くから使われている薬ですが、同時に血液をサラサラにする効果があります。昔の歯医者さんが抜歯後に痛み止めとしてアスピリンを処方すると、血が止まりにくいことに気づいたのが本療法の始まりといわれています。アスピリンは血小板(血を固める働きをする細胞)の働きを抑えることによって、血液をサラサラにするのです。
不育症の原因は様々ですが、その中に抗リン脂質抗体症候群など血栓ができやすい病態があるといわれています。アスピリンは、そのような病気がある方の妊娠中に使います。アスピリンの量は少量であることがポイントで、昔よく処方されていた小児用バファリン(81mg)と同じ量(低用量:81mgまたは100mg)を使います。大量に服用すると、かえって血液サラサラ効果は薄れてしまいます。副作用
どんな薬にも副作用はありますが、アスピリンは比較的安心して服用できる薬です。
母体に対して:
- アスピリンは、先にも述べたとおり血が止まりにくくなる薬です。したがって、抜歯や外科的処置(採卵もその一つです)を受ける時にアスピリンを服用していると止血に困ることがあるので、そのような処置を受ける際には必ず主治医にアスピリンを服用していることを告げて下さい。
- 胃の血流減少作用により胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの胃腸障害が起こることがあります。
胎児に対して:ポイントは2点あり、
- 妊娠初期の催奇形性の問題:妊娠中にアスピリンを服用した場合と、服用しない場合で奇形発生率は変わらないとする報告があります。
- 予定日12週以内(妊娠28週以降)の服用による問題:アスピリンの添付文書には、予定日12週以内(妊娠28週以降)の服用は禁忌となっています。その理由は、胎児の動脈管早期閉鎖が起こることがあるためとされていますが、低用量ではそのような危険性はきわめて低いと考えられます。28週以降に継続して服用する場合は、産科の主治医とよく相談する必要があります。
服用にあたっての注意点
アスピリンは、服用すると速やかに血中濃度が上がります。半減期も短いのですが血小板凝集抑制効果は長く続きます。1・2日飲み忘れても慌てることなく、気づいたときに1錠だけ飲めば全く心配いりません。
服用の期間
料金
バイアスピリン60日分 3,730円 当院で開催したセミナー「不育症とアスピリン療法」で使用したスライドのPDFです。
予約優先制
ご予約・
お問い合わせ03-6384-2830【電話受付】9:00~12:00 / 15:00~18:00
【休診日】火午前、水午後、木、日、祝 -
Treatment.02ヘパリン療法
ヘパリン療法とは?
ヘパリンは抗凝固剤(血液を固まりにくくする薬)のひとつで、血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群 の治療、人工透析、体外循環での凝固防止などに用いられる薬です。先にも述べたように、不育症の原因としての抗リン脂質抗体症候群や血液凝固異常症では、血液が固まりやすくなるなることにより流産や死産を起こすといわれています。そこで、これらの疾患を合併した妊娠中にはヘパリン療法を行うことがあります。多く場合アスピリンと併用で用いられます。
ヘパリン療法は注射(皮下注射)で行なう治療です。ヘパリンは半減期(血中濃度は半減するのに要する時間)が12時間と短いため、一日2回の注射が必要になります。この注射をお産まで(産後にも打つ場合があります)続けるので、通常は在宅自己注射療法として行われます。すなわち、糖尿病の患者さんがインスリンを自己注射するのと同様、一日2回自宅(職場)で自己注射します。ヘパリン療法は、妊娠が確定次第直ちに開始します。注射の開始にあたり当クリニックのスタッフが丁寧に指導いたします。副作用について
副作用には、注射局所の発赤・腫脹・硬結、アナフィラキシー(様)反応、肝機能障害、出血傾向、骨粗鬆症などがありますが、まれではあるものの最も重篤なのはヘパリン起因性血小板減少症(HIT)です。これらの副作用を未然に発見し重症化を防ぐために、注射の開始時は頻繁に通院して適宜検査を行いながら経過を慎重に観察します。
ヘパリン療法の保険適用について
ヘパリン在宅自己注射療法は、過去に血栓症の既往がある場合や、抗リン脂質抗体症候群、先天性アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などの血栓性素因を有する患者さんが妊娠した場合に保険適用があります。このうち抗リン脂質抗体症候群は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体(IgG、IgM)、抗β2GPI抗体(IgG、IgM)のうち、いずれか一つ以上が陽性で、12週間以上の間隔をあけても陽性の場合です。再検して陰転化した場合はヘパリンの適応とはなりません。
また、現在のところ抗PE抗体、抗プロトロンビン(PS/PT)抗体が陽性であっても抗リン脂質抗体症候群にはなりません。これは、抗PE抗体陽性者や抗プロトロンビン(PS/PT)抗体陽性者のデータがまだ少なく、抗リン脂質抗体症候群の国際的基準に、抗PE抗体や抗プロトロンビン(PS/PT)抗体が入っていないためです。料金
ヘパリン在宅自己注射療法 保険適用
(在宅自己注射管理料は投与日数により変わります。また、導入初期(3カ月まで)には加算があります。)*ヘパリン在宅自己注射療法を自費で行う場合は、26,000〜27,000円/2週間ほどになります。