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コロナ後遺症に不育症?

抗リン脂質抗体症候群と診断するには、臨床所見に加えて抗カルジオリピン抗体やループス・アンチコアグラントが持続陽性であることが必要です。その理由は、ある種のウィルス感染症や細菌感染症によって抗リン脂質抗体が一過性に陽性になることがあり、こうした場合には12週間以上空けて再検すると陰性化していることが多いからです。再検で陰性化すれば抗リン脂質抗体症候群ではありません。

それでは、ある種のウィルス感染とは何でしょうか?かつては梅毒などの細菌感染、C型肝炎ウィルスやエイズウィルス感染が抗リン脂質抗体産生の引き金になるといわれていました。ところが、最近になりとみに注目されているのが新型コロナ感染症です。2021年5月に出された論文(Taha et al. RMD open. 2021)では、コロナ患者さんのほぼ半数に抗リン脂質抗体が検出されたと報告されています。特にループス・アンチコアグラントの陽性率が高く、コロナ患者の87%に認められたという報告もあるようです(Harzallah et al. J Thromb Haemost. 2020)。

私が最も注目したのは、コロナ感染者でループス・アンチコアグラントが陽性を示した42人を3〜6ヶ月フォローアップしたデータです。これによると、ループス・アンチコアグラントは42名全員で陰性化しましたが、10名(23.8%)は何らかの抗リン脂質抗体が依然陽性を示していたというものです(Vollmer et al. Autoimmun Rev. 2021)。すなわち、従来はウィルス感染によって惹起された抗リン脂質抗体は一過性に出現し、ある一定期間後に陰性化すると考えられていたのですが、コロナ感染で惹起された抗リン脂質抗体は持続化する可能性もあることを示唆しています。

不育症の専門家としては、コロナ後遺症のひとつに抗リン脂質抗体による流産・不育症が出てくるのではと密かに心配しています。

コロナ感染症は人々の妊娠行動を大きく変えてしまいました。感染を恐れるあまりに、妊娠を控えたカップルも多いと推測されます。幸い、ワクチンは感染と重症化を防ぎその効果は顕著に出ているようです。懸念された不妊や流産を引き起こす作用も否定されていますので、妊娠を考えているカップルは、是非ワクチンを接種しコロナには絶対に感染しないよう万全の予防策をとっていただきたいと思います。

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