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サプリメントの摂取について

不育症外来でよく受ける質問の一つに、適切なサプリメントの摂取に関する事項があります。今回、不育症の主たるリスク因子である抗リン脂質抗体症候群における天然サプリメントの摂取に関する学術論文(Nina Kello, Young Min Cho: Natural supplements in antiphospholipid syndrome: A case for further study, Clin Immunol. 2023 Nov 28:109848.doi: 10.1016)が出ましたので紹介したいと思います。

この論文は、Clinical Immunologyという一流学術誌に掲載されたものですが、主に内科的抗リン脂質抗体症候群を対象とした記述となっている点に注意が必要です。すなわち、妊娠前や妊娠中の摂取に関する記載は少なく、各サプリメントの胎児への影響は未知数のため、不育症や不妊症の女性にそのまま推奨できるものではないということです。

論文中の表1.は各サプリメントの効果に関するエビデンスをまとめたものです(原文は英文で日本語訳にする際に注釈を加えた箇所があります)。内容は専門的ですが、多くのエビデンスが内科的な血栓症予防に焦点が当てられています。唯一、オメガ3系不飽和脂肪酸には産科合併症に関する記載がありますが、古い論文でエビデンスレベルも高いとは言えません。

論文の題名(A case for further studyにもあるように、まだまだ研究が必要な領域であるということです。サプリメントの盲目的な摂取は厳に控えなければならず、特に妊娠を目的とした摂取、妊娠中の接種に関しては十分な注意が必要です。

表1.抗リン脂質抗体症候群におけるサプリメントに関する最近のエビデンス

Supplement Evidence in APS
ビタミンD ●抗β2GPI抗体により血管内皮細胞から産生される組織因子(TF、凝血塊の形成を誘発する)を抑制する [N. Agmon-Levin, M. (2011)].

●抗カルジオリピン抗体により発現する血管内皮細胞上の接着分子 ELAM-1 および ICAM-1 を抑制する [R. Gualtierotti (2018)].

●ビタミンD欠乏症は抗リン脂質抗体症候群患者に多い(健常者の1.7倍) [N. Agmon-Levin, M. (2011), L. Andreoli (2012), S, J. Paupitz (2010), K. Klack (2010)].

●ビタミンD欠乏症(<15ng/mL)は、抗リン脂質抗体症候群患者における血栓リスクおよび産科合併症と関連している [N. Agmon-Levin, M. (2011)].

●ビタミンD欠乏症(<20ng/mL)は、産科APS患者における補体活性化、胎盤機能不全、重症妊娠高血圧腎症と関連していた [F. Cyprian (2019)].

オメガ3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA) ●抗リン脂質抗体症候群マウスモデルにおける流産、血栓症の減少、および抗β2GI抗体力価の減少 [R. Reifen (2000)].

●抗リン脂質抗体症候群マウスモデルにおける神経機能と死亡率の改善 [G. Maalouly (2017)].

●抗リン脂質抗体患者(22人)における血管内皮機能の改善[S.M. Felau (2018)].

●オメガ3系多価不飽和脂肪酸の抗リン脂質抗体症候群患者における流産予防効果はアスピリンと比べて同等(オメガ3系:73.3% vs アスピリン:80.0%)[G. Carta (2005)].

●産科的抗リン脂質抗体症候群患者22名にn-3 PUFAを投与したところ(3年間で 23 件の妊娠)、重症妊娠高血圧症候群により 27 週で子宮内胎児死亡となったのは 1 件のみ。重症妊娠高血圧症候群の全体的な発生率は 15% 未満であった(この論文は比較対照のないパイロット試験)[E. Rossi (1993)].

コエンザイムQ10 ●酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全を予防し、抗リン脂質抗体で前処理した単球上のTF、VEGF、Flt1を含む血栓形成マーカーの発現を抑制した[C. Perez-Sanchez (2012)].

●36人の抗リン脂質抗体症候群患者にコエンザイムQ10を投与したところ、酸化ストレスや凝固促進経路の細胞マーカーが減少した [C. Pérez-Sánchez (2017)].

生姜 ●試験管内および抗リン脂質抗体症候群マウスモデルにおいて抗リン脂質抗体によるNETosis(細胞死のタイプのひとつ)を抑制した [R.A. Ali (2021)].

●全身性エリテマトーデス(SLE)マウスモデルにおける抗β2GI抗体力価を低下させた [R.A. Ali (2021)].

●抗リン脂質抗体症候群マウスモデルにおいて広範な血栓症の発生を防止した [R.A. Ali (2021)].

イソケルセチン(Isoquercetin、果物や野菜に広く含まれるフラボノイド) ●抗リン脂質抗体が持続陽性を示す6人の患者がイソケルセチンを服用したところ、トロンビンの産生が64%減少した [J.I. Zwicker (2019)].
ビタミンE ●試験管内の実験で超酸化物(suoeroxide)と組織因子が減少した [D. Ferro (2003)].

●抗リン脂質抗体症候群患者において、ビタミンEは酸化ストレスマーカーとトロンビンの産生を減少させることが2つの臨床試験で確認された [D. Ferro (2003), D. Pratico (1999)].

エピガロカテキンガレート (EGCG) ●抗β2GPI抗体/β2GPI複合体で前処理した培養細胞の組織因子とTLRs-MAPKs- NFkB軸の発現を抑制した [T. Wang (2014)].
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