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抗リン脂質抗体症候群—日本不育症学会からの提言

抗リン脂質抗体症候群は不育症3大原因のひとつで、その診断には従来から国際抗リン脂質抗体学会による分類基準(表1)が用いられてきました。

2023年10月に、米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会は新しい抗リン脂質抗体症候群の分類基準を発表しました(表2)。この分類では、臨床所見と検査所見を点数化してそれぞれ3点以上ではじめて抗リン脂質抗体症候群に分類することになっています。ところが、16週未満の流産は何回繰り返しても1点にしかならず、16週以降の胎児死亡・死産の既往があっても1点にしかならないため、従来分類で習慣流産や原因不明の死産により抗リン脂質抗体症候群とされていた症例は抗リン脂質抗体症候群に分類されないことになったのです。

従来の分類基準も学術的な疾患分類用の基準で診断基準ではないのですが、実際には診断基準として診断・治療の指標にしているのが現状です。おそらく産科的抗リン脂質抗体症候群の95%以上は習慣流産や死産を臨床症状として抗リン脂質抗体症候群と診断されていると考えられます。したがって、新分類が適用されると、反復初期流産・死産のみでは抗リン脂質抗体を測定する動機付けにはならず、産科的抗リン脂質抗体症候群は殆どなくなってしまうと思われます。抗リン脂質抗体症候群と診断され、アスピリン・ヘパリン療法を行なって元気な赤ちゃんを授かった患者さんは数知れません。新分類の導入により、こうした患者さんが治療の機会を失うようなことがあってはなりません。

そこで、日本不育症学会は、従来の国際抗リン脂質抗体学会による分類基準(表1)に基づいて診療をおこなうことを推奨し、日本不育症学会HPに「産科抗リン脂質抗体症候群の新分類基準に関する日本不育症学会の提言」を公表しました(不育症学会の見解)。この提言では、従来分類を推奨するとともに、議論がある点にも言及しています。特に、従来分類の臨床基準では反復初期流産は3回以上とされていますが、2回の段階で検査を行うべきだと示唆している点は重要です。

抗リン脂質抗体症候群を適切に診断することで、多くの不育症患者さんが元気な赤ちゃんを授かるよう願うばかりです。

 

表1.抗リン脂質抗体症候群の分類基準(2006年)

臨床所見
I.        血栓症

II.      産科的臨床所見

1.       妊娠10週以降の原因不明子宮内胎児死亡(形態学的異常なし)

2.       妊娠34週未満の(i)重症妊娠高血圧腎症・子癇や(ii)胎盤機能不全に起因すると考えられる早産(形態学的異常なし)

3.       妊娠10週未満の3回以上の連続した原因不明習慣流産(夫婦いずれかの染色体異常,先天性子宮形態異常,内分泌異常を除外)

検査所見:以下の抗リン脂質抗体が12週以上の間隔で2回以上陽性
1.     血漿中のlupus anticoagulant (LA)陽性:検査方法と基準は国際血栓止血学会(ISTH)ガイドラインに準ず

2.     血清か血漿中の抗カルジオリピン抗体IgGかIgMが中高力価:標準化された方法で>40GPL,>40MPLあるいは>99パーセンタイル

3.     血清か血漿中の抗β2GPI抗体IgGかIgM陽性:標準化された方法で>99パーセンタイル

 

 

表2.米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会による新しい抗リン脂質抗体症候群の分類基準(2023年)

臨床所見
1)大血管(静脈血栓塞栓症(VTE))

l  ハイリスクVTE既往あり 1点

l  ハイリスクVTE既往なし 3点

 

2)大血管動脈血栓症(CVD)

l  ハイリスクCVD既往あり 2点

l  ハイリスクCVD既往なし 4点

 

3)微細血管病変

l  分枝状皮斑疑い、リベド血管症疑い、急性/慢性腎症疑い、肺出血疑いのうち 1 つ以上あり 2点

 

l  リベド血管症(病理診断)、急性/慢性腎症(病理診断)、肺出血(病理診断)、心筋疾患(画像か病理診断)、副腎出血(画像か病理診断) 5点

 

4)産科領域

l  妊娠10週未満の3回以上の連続した流産 and/or 妊娠10週0日〜15週6日胎児死亡 1点

 

l  妊娠16週0日〜33週6日の胎児死亡(重症妊娠高血圧腎症 or 胎盤機能不全*を伴わない) 1点

 

l  妊娠34週未満の重症妊娠高血圧腎症 または 胎盤機能不全* 3点

l  妊娠34週未満の重症妊娠高血圧腎症 かつ 胎盤機能不全* 4点

 

*胎盤機能不全:推定胎児体重(出生時体重)が10パーセンタイル未満であり、かつ下記の「重篤な徴候」が 1 つ以上ある場合

重篤な徴候:NSTでの低酸素徴候、non-reassuring、臍帯動脈ドップラーで血管抵抗の増加、推定胎児体重(出生時体重)3パーセンタイル未満、AFI 5cm以下(羊水ポケット<2cm)の羊水過少、胎盤病理検査での循環不全所見

 

5)心臓弁

l  肥厚 2点

l  疣贅 4点

 

6)血液

l  血小板減少症(2〜13万) 2点

 

検査所見
1)ループスアンチコアグラント(LAC):ISTHガイドラインに従う

l  単回陽性 1点

l  持続陽性 5点

 

2)抗カルジオリピン抗体(aCL) and/or 抗β2GPI抗体(aβ2GPI):標準化されたELISA法による

l  IgM抗体:中等度または強陽性 1点

l  IgG抗体:中等度陽性(aCL and/or aβ2GPI) 4点

l  IgG抗体:強陽性(aCL or aβ2GPI) 5点

l  IgG抗体:強陽性(aCL and aβ2GPI) 7点

 

中等度陽性は40〜79単位、強陽性は80単位以上

 

臨床所見3点以上と検査所見3点以上を3年以内に満たした場合にAPSと診断する(各ドメイン内で、最も重み付けされた基準のみを合計スコアにカウントする)。

 

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